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2009-07-15 (Wed)
すべては人間のエゴの下に――。

東京の西端、奥多摩にある東京霊長類研究センター。そこに研究員として勤める田中真の研究対象は3歳のオスのボノボ(ピグミーチンパンジー)、バースディである。
“バースディ・プロジェクト”と名づけられたこの研究は、高い知能を持つ類人猿であるボノボのバースディに言語を習得させることを目的に行われている。
人間の三歳児と同程度の言語能力を習得済みのバースディとのやりとりは、彼のために特別に作成されたキーボード。単語並べのような単純な会話を通して人間とコミュニケーションをとることができるのである。

バースディ・プロジェクトには真の他にも複数名の人間も関わっている。理学部の大学院生で共同利用研究員である藤本由紀もその一人だ。彼女は真の恋人でもあった。
4月のある日、真は由紀にプロポーズをする。博士論文の執筆や研究等に追われる由紀は、エンゲージ・リングこそ受け取ってはくれなかったが前向きな返事を真に告げる。
しかし、その夜、由紀はバースディ・プロジェクトが行われている5階の研究室の窓から転落死してしまう――。

事故か?自殺か?それとも殺人なのか?
混乱し、失意のどん底に叩き落とされた真に知らされた、ある事実。
その事実とは、「由紀が窓から転落した夜、研究室にはバースディもいた」ということ。
あの夜、由紀に何が起こったのだろうか?
真相を突き止めたい一心で真は、バースディとの必死の「会話」を試みるのだが―――。


シリアスで重い空気をまとったこの物語の中で、読者を和ませてくれるのがバースディ。
彼の愛くるしい動作や感情表現には思わず頬が緩みます。
しかし、バースディが純真無垢であるほどに対比して浮かび上がってくるのが人間達の醜さ、狡猾さ。
真の周囲の大学教授やらは言うまでもありませんが、真自身も決して高潔な人物ではありません。たしかに周囲の人々に比べれば、真は純粋であるかもしれませんが。

我々人類は、自分たちのことを「あらゆる生き物の中で最高の存在」だと自任しています。
たしかに、最高の知能を持っていることは科学的にも疑いの余地はないでしょう。だからこれはあくまで「文学的」なアプローチとして―。

果たして、純粋さを、精神の清らかさを失くした存在を「崇高」と呼ぶだろうか?

人間は、どう足掻いても財産や地位や名誉といった「あくなき欲望」から逃れることができません。
ただし、それらを求める心は言い方を変えれば「向上心」とも言えるわけであって、必ずしも「欲」が悪しきものだとは限りませんが。
けれど、欲のために穢れたものに手を染める、踏み越えてはならない線を踏み越える。何よりも、悪しきことに他者を巻き込む。
そこには一片の「清らかさ」も存在しません。
これでは精神面はまるで下等。

しかし残念ながら、人間というのは、己の欲望のために割と簡単に崇高な精神を失いがちだったりします。
というより、必ずすべての人間が心に「穢れ」を持っているのですが。

そう。
すべての人間が「穢れ」を持っているのです。

人類が高い知能と引き換えに失ったもの。
精神の清らかさ。
たとえば、バースディが持っているような・・・。

我々が知らないだけであって、人類は精神世界においては最も下等な生物なのかも知れません。






さて、この物語全般に対する感想ですが、一言で言えば
「惜しい!」
につきますね(笑)

アイディアは斬新、舞台設定もしっかりしているのですが、登場人物の造形がどうも甘いような。ちゃんと練りきってないというか。
どの人物にも感情移入できなくて、そのために全体の印象が軽くなってしまいました。
真にしても由紀にしても、もうちょっと作りこんで描いて欲しかった。
この甘さが、結局最後の「由紀の死の真相」に響いてしまいました。「…え、これが理由なの?」といった感じで。



ちょっぴりネタばれですが・・・




最後の一文が、本のタイトルになっているというのはダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」と同じですが、それがもたらすインパクトやショック、余韻はやはりアルジャーノン~にはかなわないですね。
「花束」という、喜びの時にも哀しみの時にも使われるアイテムをポイントにしたことで、最後に「うわあぁ…」と思わせるキイスに対して、「さよならバースディ」というタイトルは、展開を予測させてしまい、意外性がなくなってしまっています。

そんないろんな意味で惜しい作品ですが、「ヒトと人間の違い」を考えさせてくれる、非常に哲学的な作品でもありました。
なんだかんだ言いつつ、「真と由紀の最後の『会話』」にはホロっときます。


(2008.09.30 記)

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